モーリスSシリーズの誕生と進化
モーリスは2001年、“ギター作りの新しいフィールドで、常に挑戦者でありつづける”というポリシーの一貫として、フィンガーピッカーの求める、“フィンガー・ピッキング・スタイルに最適なギター”として、Sシリーズを発表しました。
当時、私たちは、アメリカ進出のためのマーケット・リサーチを進め、現地のピッキング・コンテストの視察や、ギター・ルシアーとの交流を重ねた結果、“フィンガーピッカーのプレイに対応できるギター”の開発が必要との結論に至りました。
そして、フィンガー・ピッキングという演奏方法、表現手段に絞って、ネック、ボディの精査研究を重ね、著名なフィンガー・ピッカーとのコラボレーションを通じて、“フィンガー・ピッキング・スタイルに適したギター”の開発を行いました。
同時に、ルシアーが全工程に携わって完成させる“LUTHIER MADE”、数人のスペシャリストが各々の技術を結集して完成させる“HAND MADE”の2つの製作スタイルを採用し、少数精鋭による手作りのハイ・クォリティー・ギターの製作法を確立して、Sシリーズの発表に踏み切ったのです。
当初、カタログ・デビューを果たしたのは、ボディ・スタイル(グランド・オーディトリアム/クラシカル・オーディトリアム)とカッタウェイ・スタイル(ベネチアン/フローレンタイン)の最適な組み合わせに対して、トップ材(スプルース/アメリカン・シダー)とサイド&バック材(ローズウッド/マホガニー)の組み合わせを掛け合わせることで生まれた厳選された8モデルでした。
2003年に“ディープ・ラウンドバック”が新たに採用され、ブレイシングもバージョン・アップされたことで、Sシリーズを構成するライン・アップの見直しが計られ、新たなる12モデルがカタログを飾ることとなり、その後、Sシリーズをやや小形にしたSSモデルや、セミ・ジャンボ・ボディのSJシリーズなど、新たな魅力をそなえたモデルが加わり、現在ではスタイル、タイプの異なる16モデルが存在しています。
フィンガー・ピッキングスタイルに適したギター
弦をドロップして音程を下げると、弦のテンション(張りの強さ)が弱くなり、ビビリやすくなると同時に、デッド・ポイント(音がつまって鳴りにくい、響かない場所)となるポジションが発生する場合があるので、チューニングの変更によるテンションの変化に対応できる、“ネジレ”が無く、“ソリ”に対して復元力の強い、剛性の高いネックであることが必要です。
ボディは、微妙なタッチの差を確実に表現するため、弦の振動に対して反応が良く、高音から低音までバランスに優れ、豊かな音量に拡大するポテンシャルがあることが必要です。ネックとボディは、ロー・ポジションからハイポジションまで低目の弦高になるような角度を設定し、振動の伝達特性と強度を確保する方法で、的確にジョイントされていることが必要です。指が上下の弦に干渉しない弦間を確保し、6弦は親指でも押さえやすく、1弦はヴィブラートをかけてもフィンガーボードから落ちない様にナットが設定され、それに対応したフィンガーボードであることが必要です。サドルは、ハイポジションまで適確なピッチを確保できるよう、適確なオクターブ・ピッチ調整が行われていることも必要です。
SJS-145
SC-131BP
SC-16U
S-101M
モーリスSシリーズの特徴をクローズアップ!
プログレッシブ・シンネック
Sシリーズのネックは、5年あまり乾燥させたマホガニーで作られており、ナット位置で44mmまたは45mm(通常は43mm)の幅で、スケール長は652mmを採用しています。ネックの厚みは1フレット位置で21mm、10フレット位置で22mmと、厚みの変化の少ないストレート・タイプの超薄型ネックです。
トラスロッド
アルミ・ケースにロッドを仕込んだトラスロッドを最も張力の影響を受ける部分にネックと一体化するように仕込むことで、ネックの強度を保ちつつ反りの確実な復元調整を可能にしています。
フィンガーボード
ナット幅44〜45mm、12フレット幅55〜56mmで、各弦の弦間が広めになっており、300Rの緩やかなカーブがつけられています。フレットはやや細目で硬めのタイプを正確に打ってあり、自由自在なフィンガリングを可能にしています。
ナット
6弦を親指で押さえて弾くプレイに対応するため、6弦〜1弦の弦間はそのまま、全体的に約1mmほど低音側に寄せてあり、1弦もフレットから落ちにくくなっています。
ネックジョイント
ネックとボディは、音響伝達の向上と、ジョイント部での“ネック起き”を防ぐために、効率の良い形状のダブ・テイルを組んでジョイントされており、ボディ・トップに対して角度をつけてネックを仕込んであるため、ハイ・ポジションでの弦高が低く押さえられています。
ボディ
ボディには、充分に天然乾燥した材が使用されており、すべての接着部分は、ニカワに匹敵する最新の接着剤により確実に密着されています。
グランド・オーディトリアム、クラシカル・オーディトリアム、セミ・ジャンボのいずれのタイプもボディ・サイズは小さめで、ボディの厚みを増して大きな鳴りを生み出しています。バックについては、低音弦〜高音弦方向にのみ軽いラウンドをつけた“スタンダード・ラウンドバック”と、さらにネック・ジョイント部、ボディ・エンド方向にもラウンドをつけたパラボナ・アンテナ状の“ディープ・ラウンドバック”を採用したモデルが用意されています。どちらも基音やサスティーンには大きな違いはありませんが、“ディープ・ラウンドバック”は倍音成分が強調されることになり、膨らみのあるサウンド(低音が強化された力強い鳴り、音量のアップ、サスティーンの増大が感じられる)となっています。全てのモデルに、ベネチアン・スタイルまたはフローレンタイン・スタイルのカッタウェイがつけられているのも特徴です。
ブレイシング
トップのブレイシングは、スキャロップドXブレイシング、スキャロップドXXブレイシング、ルシアーメイドの最新のモデルにはAXLブレイシングを採用しています。Xブレイシング、XXブレイシング、いずれの場合にも弦の振動がブリッジからトップ全体へとバランス良く伝わるため、低音から高音まで、豊かな響きとサスティーンを実現しています。そしていずれのバックにもXブレイシングが施されており、トップ材と同じように振動させることで、よりふくよかな響きを生み出しています。
進化したラティスブレイシング
最新のルシアーメイド・モデルに採用されているAXLブレイシングは、一般的なラティスブレイシングと違い、Xブレイシングと組み合わせにより形成された進化型のラティスブレイシングです。トップ面全体にわたる強度の調整のしやすさからギタースタイルに合わせたさまざまなサウンドメイクが可能で、ブレイシングの強度を稼ぐことによりトップ材をより薄く加工することが可能になり、ギター全体の設計にバリエーションをもたらしました。
テンション
サドルと平行してブリッジ・ピンが並ぶようにすることで、ブリッジ側のアクションを調整し、適正なテンションを確保しています。
サドル
ロー・ポジションからハイ・ポジションまで、フィンガーボードから弦までの距離が非常に短く、オクターブ・ピッチの狂いが少ない環境を作って、サドルで調整しているので、ハイ・ポジションでも正確なピッチが確保されています。
フィニッシュ
少量の塗料を均一に薄く塗り、それを研磨して、再び少量の塗料を均一に薄く塗って研磨するという工程を4回繰り返して、薄くて丈夫な塗膜の塗装を行っています。